理学療法士が建築家を目指してみた

「理学療法士」兼「介護支援専門員」の30代後半の医療介護福祉従事者が、「建築家」を目指し一念発起。住まいや環境などについて考えたことや、自分自身の考え方などを発信していくブログにしていこうと考えています。医療介護福祉関係の方、建築関係の方問わず、様々な意見を頂ければ幸いです。また、30代後半からの転職を考えている方にも何か参考になることがあればと思います。

認知症に対する仮説の話

  一般的に認知症の原因は、アルツハイマー病など脳に起こった病気や、加齢による脳の老化が原因と言われています。認知症は近年、社会的な課題の一つとして取り上げられており、医療介護福祉の場面においては特に大きな問題として扱われています。

 そんな認知症の原因について、ちょっと違った視点で考えていることがあるのでそのことについて書いてみようと思います。

 

・「適応」する身体

認知症が何故起こるのか考える

 

 

1.「適応」する身体

 

 人間の身体は常に作り替えられています。細胞は分裂と増殖を行い、古くなったり機能を終えた細胞は死んでいく。そのようなことが寝ているときも起きているときも繰り返されて私たちは生きているのです。

 この生体の営みは、外部環境の刺激を受けて絶えず変化しています。分かりやすい例として筋肉を取り上げてみましょう。

 

 昨今の筋トレブームで筋力トレーニングを行う人が増えてきました。我々理学療法士リハビリテーションとして筋力トレーニングを行うわけですが、なぜ筋力トレーニングを行うと筋肉が大きくなるのでしょうか。

 

 筋力トレーニングを行うと、筋肉の細胞と筋肉を動かす神経細胞に刺激が入ります。刺激を受けた細胞では、その刺激が何らかの形で細胞核の中のDNAに到達し、筋肉や神経を構成するたんぱく質の合成が促進されます(DNAやmRNA、tRNAなどの話は割愛します。興味のある人は自分で調べてみて下さい)。

 飲食によって小腸より吸収されたアミノ酸がこの細胞に集まり、新たな筋肉や神経を構成するたんぱく質として合成された結果が筋トレの効果として筋肥大や筋力増強という形で表れているのです。

 

 余談になりますが、先に述べた通り我々理学療法士は機能訓練の一環として筋肉や神経に対してアプローチを行います。それは言い換えれば細胞核、DNAに対するアプローチを行う、そんな職業なのです。

 理学療法は英語でPhysical Therapyと言います。このPhysicalには「物理的な」という意味があり、身体運動を物理学的にとらえる職業と解釈することもできます。しかしながらこの「物理的な」という意味は、「物理的な刺激」という意味にあるという解釈もあり、私はそちらの意味を重くとらえるようにしています。

 今現在一般的に行われているいわゆる筋トレでは、負荷をかけた機械的な運動による刺激、筋肉の収縮と伸張という直接的な刺激によってアプローチをかけます。しかし単純に「筋肉をつける」ということであれば、他の物理的刺激でも可能なのです。例えば温熱刺激でも筋たんぱく質の合成は促進されることが証明されています。様々な物理刺激がある中でより効率よく効果的に「筋肉をつける」ということで現在の手法を取っている、ということなのです。ですので今後の研究によって、現在の手法よりもより効果的に筋力をつけることができる物理的刺激が現れるかもしれません。DNAをより刺激するアプローチが開発されるのも楽しみです。

 

 話がだいぶそれてしまったのですが、とにかく筋肉に限らず人間の身体はその時々で様々な外部からの刺激を受け、その環境に「適応」するために絶えず変化しているということをまず知っていただきたいと思います。

 

 

2.認知症が何故起こるのか考える

 

 人間の身体が常に「適応」するために変化しているという前提で考えていったときに、ふと、認知症になる」ということ自体が、生存するための戦略として取られた手段であり、「適応」なのではないか、という仮説を考えるに至ったのです。

 

 現代はストレス社会であると広く言われています。精神的ストレス、身体的ストレス、世の中はストレスに満ち溢れています。そのような環境の中で生活し心身を壊してしまうという方が非常に多い現状があります。

 そんな中で、ストレスを感じずに生きるためには、ストレスをシャットアウトする、つまりストレスを「感じない脳になる」ことが手っ取り早いと生物学的なレベルで身体が判断する、という可能性は否定できませんストレス社会に「適応」して、生存するためにあえて脳機能を低下させるという方法を選択しているかもしれないのです。

 この生体における「正の反応としての認知機能低下」という仮説を立てて研究している人は、そういないと思います。機会があれば私自身がやってみたい研究であると思っていますが。

 

 身体的な面から考えた場合、慢性的な疼痛を抱えている人は認知症を発症する可能性が高いのではないか、と思っています。慢性的な疼痛で色々な治療を行っても効果があまりなく、長い期間ずっと痛みに悩まされている場合、楽に痛みというストレスから解放される方法は、「自ら認知症になること」なのではないかと。「本人が望んで」なるのではありません。「生物としての人間が生存していくために」なるのです。

 そう、「適応」なのです。

 

 この「慢性疼痛と認知症との関係性」についての研究には長期的な追跡調査が必要になるので、今現在のところ実際に研究を行ったわけではなく確証を持って言えることなのではないですが、今後共同研究を行ってくださる方がいらっしゃいましたら、ご一報ください(mail:koku83@yahoo.co.jp)。

 

 もしこの仮説が正しいとするならば、認知症予防の在り方も見直していく必要が出てくると考えられますし、疼痛に対する早期治療の重要性も再認識されると思います。

 そして、ストレスというものに対する関わり方を社会全体で変えていくことによって、認知症になる人の数を大きく減らしていくことができる可能性もあります

 

 最初に述べましたが、人間は絶えず変化し続けるものです。外部の環境からの刺激を受けて、どのようにも変化し、適応しうる能力を遺伝子レベルで備えているのです。

 今回は認知症の面から考えてみましたが、人間の生物としての適応力と、その「適応力を引き出す環境作り」ということについても今後様々なことを考えていきたいと思います。